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福岡地方裁判所 平成8年(わ)35号 判決

裁判所書記官

神崎憲二

本籍

福岡県田川市大字伊加利九二二番地

住居

右同所

会社役員

成定征子

昭和一六年一一月六日生

右の者に対する所得税法違反事件について、当裁判所は、検察官金城正之、弁護人森統一(私選)出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金一二〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、福岡県田川市大字伊加刈九二二番地に居住し、同県田川郡香春町二〇四三番地の一において「シティーコート」の名称でホテル業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、ことさら過少な所得金額を記載した所得税確定申告書を作成するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成三年の実際総所得金額が四三二六万九四三五円であったにもかかわらず、同四年二月二四日、福岡県田川市新町一一番五五号所在の所轄田川税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が一四万六〇六〇円で、これに対する所得税額は零円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一七四一万七五〇〇円(別紙一の脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成四年分の実際総所得金額が三五七九万九〇五四円であったにもかかわらず、平成五年三月九日、前記田川税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が三八万七五〇五円で、これに対する所得税額は零円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一三六七万五五〇〇円(別紙二の脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成五年分の実際総所得額が三一八一万二〇二六円であったにもかかわらず、平成六年三月七日、前記田川税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額が四二万一九一四円で、これに対する所得税額は零円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の所得税額一一六六万七〇〇〇円(別紙三の脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の公判供述

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官調書四通(乙二二ないし二五)

一  成定定利の検察官調書謄本三通(甲一九ないし二一)

一  小川トキワの検察官調書謄本(甲二二)

一  査察官報告書(甲一八)

一  脱税額計算書説明資料(甲五)

判示第一の事実について

一  脱税額計算書(甲二)

一  押収してある所得税の確定申告書一通(平成八年押第三七号の一〇)判示第二の事実について

一  脱税額計算書(甲三)

一  押収してある所得税の確定申告書一通(平成八年押第三七号の九)

判示第三の事実について

一  脱税額計算書(甲四)

一  押収してある所得税の確定申告書一通(平成八年押第三七号の八)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、各年度ごとに所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも各所定刑中懲役刑と罰金刑とを併料し、情状により同条二項を適用し、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により適用される同法による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑にについては前同刑法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については前同刑法四八条二項により判示各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一二〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、前同刑法一八条により金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により前同刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、ホテルを経営する被告人が、平成三年分から平成五年分までの確定所得申告をするに当たり、実際の総所得金額よりも著しく少ない総所得金額を申告して多額の所得税を免れたという事実である。そのほ脱税額は三期にわたり合計で四二七六万円余りという多額に上っており、ほ脱率は一〇〇パーセントであって悪質な犯行といわざるを得ない。本件犯行の主たる動機として、被告人は、ホテル業界の横並び慣行や夫の経営する成定建設の経営危機への備え、自己の経営するホテル業の改装費用の積み立ての必要性を挙げるが、結局、私利私欲に基づくものといわざるをえず酌むべき点はない。本件のような脱税事犯は、申告納税制度を採用しているわが国の税制の根幹を揺るがしかねないものであり、この種事件に対する一般納税者の法感情には相当に厳しいものがあることをも併せ考慮すると、被告人の刑事責任は重いというべきである。

他方、被告人は、事件発覚後は本件各犯行に及んだことを反省し、捜査に協力するとともに修正申告をし、平成三年分から平成五年分までの所得税、消費税、市県民税、事業税の各本税及びこれらの税に対する重加算税及び延滞税等について納税し、平成二年分についても自発的に修正申告をしてその納税を終えていること、ホテル事業を法人化し、月々作成する帳簿は税理士に目を通してもらい、確定所得申告に当たっては税理士と相談するなど再発防止策を講じていること、被告人にはこれまで前科前歴はないことなど被告人のために酌むべき事情も認められる。

以上、被告人に有利、不利な事情を総合勘案して、主文のとおり刑を量定した。

(求刑懲役一年及び罰金一五〇〇万円)

(裁判長裁判官 照屋常信 裁判官 冨田一彦 裁判官 坂元寛)

別紙 〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

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